おーおんしと、くねくねと
まだ私が小さかった頃、祖父がわがままをいう私に向かってこういいました。「"おーおんし"がさらいに来るぞ」
近所の喜助さんがトイレに行っている間に後ろから口をふさがれて連れて行かれたというもっともらしい小話もそえられ、それから数日間はトイレに行くのが怖かった記憶があります。
最近ではこの手の話はトラウマしか与えないので控えたほうがよいといわれていますよね。
私もこれまで使わないようにしていたのですが、先日どうしても帰らないと言い張る子どもたちを説得できず、
「遊んでもいいけど、くねくねが見えたら必ずパパに言ってね。すぐ帰ろう。」
と言ってしまいました。
その瞬間ぴたりと動きを止める二人。
「なに?くねくねって?」
よし、引っかかったぞと心の中でガッツポーズをしながら、「くねくねは白くて、くねくね動いているものだよ。こんな暑い日に、山の向こうにいることが多いらしい」と。
ここまで話すと、二人は急に怖くなったようで、もう帰ると言い始めあっという間に車の中に。
たっぷりと太陽の熱を吸収してサウナ状態になっている車のドアを急いで開けて、エアコンを最強にしてと。
それから二人を着替えさせていたのですが、その間もずっとくねくねの話を聞いてきます。
「もう車の中にいるから大丈夫だよ」と伝えると、ほっとしたような顔をしていましたが、長男だけは、山の中腹を一生懸命確認しており、そんな姿を見て少し罪悪感が残ってしまいました。
本当はそんなものなんていないんだよ。
君たちが熱射病で倒れてしまわないようにすこしだけうそをついたんだよ。
帰りの車の中で、あっという間に眠りについた子どもたちの顔を見ながら、ごめんねといいました。